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「2024年09月」の記事一覧

2024年9月の投稿

中小企業M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)のポイントを解説

企業の売却や買収を検討する際には、適切な売却価格や買収価格を決定するための「企業価値評価(バリュエーション)」が必要です。これは端的にいえば、取引を成立させるための価格設定のプロセスです。本記事では、中小企業M&A(企業の合併と買収)における企業価値評価の基本と実践方法について解説します。また、赤字企業のケースにおける企業価値評価についても取り上げます。

企業価値評価の定義

企業価値評価とは、企業の全体的な価値を数値化するプロセスです。企業が保有する資産、負債、将来の収益予測などを考慮して行われます。企業価値評価は、資金調達の際に投資家が企業の価値を見極めるための基準となり、株価を算定する根拠となります。また、事業承継の際には後継者や買い手が企業の価値を正確に把握するために必要で、相続税の評価にも関わります。さらに、M&A(企業の合併と買収)においては、売却価格や買収価格を決定するために行われます。M&A時に算出された企業価値は、売り手側と買い手側が交渉する際の基準となる重要な要素です。
このように企業価値評価はさまざまなビジネスシナリオで必要とされますが、本記事では特にM&Aにおける企業価値評価に焦点を当て、その具体的な方法や実践のアプローチについて掘り下げていきます。

企業価値評価の主な方法

企業価値評価にはいくつかの方法があります。それぞれの方法は企業の状況や評価の目的に応じて適切に選択されます。

市場アプローチ

市場アプローチは、同業他社の取引価格や株価を基にして企業価値を評価する方法です。この方法は、市場での評価を反映しているため、現実的な価格を算出することができます。ただし、同業他社との比較が難しい場合や市場データが不足している場合には適用が難しいことがあります。

収益アプローチ

収益アプローチは、企業の将来の収益予測に基づいて企業価値を評価する方法です。代表的な手法にDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)があり、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価します。この方法は、企業の将来の収益力を反映するため、成長性の高い企業の評価に適していますが、予測の精度に依存しているため、不確実性が高い側面もあります。

資産アプローチ

資産アプローチは、企業が保有する資産の価値に基づいて企業価値を評価する方法です。企業の資産(不動産、設備、在庫など)の市場価値を基に評価するため、特に資産が多い企業や収益が安定していない企業の評価に適しています。ただし、無形資産の価値や将来の収益力を十分に反映できない場合があるため、他のアプローチと組み合わせて使用されることもあります。

中小企業に多く使われる評価手法

中小企業や非上場企業の評価には特有の課題や条件が存在します。ここでは、これらの企業に適した評価手法について検討します。

収益アプローチの適用

収益アプローチは、中小企業にとって重要な評価手法の一つです。特にDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)は将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価するため、将来の収益性を反映することができます。しかし、この方法には精緻な事業計画が必要であり、特に中小企業の場合は予測のぶれが大きくなることもあります。

資産アプローチの適用

資産アプローチは、保有する資産の市場価値を基に評価する方法です。不動産や設備、在庫などの有形資産の評価が重要な要素となります。収益が安定していない企業や、資産が多い企業の場合に有効で、中小企業の評価にも適用されることが多いです。

営業権の評価

中小企業のM&Aにおいては、営業権(のれん)も重要な要素となります。営業権とは、企業が長年培ってきたブランド力や人的資源など、帳簿上で評価できない要因によって期待される超過収益力のことです。純資産の時価に営業権を加算することで、評価対象企業の収益力を考慮して企業価値を算出します。実際の中小企業のM&Aの場面で多く採用されています。

赤字企業の企業価値評価

次に、赤字企業のM&Aにおける企業価値評価について検討してみましょう。赤字企業は、その特性から通常とは異なるアプローチが求められます。ここでは、赤字企業の評価におけるポイントと適用される評価手法について解説します。

赤字企業の特性と課題

赤字企業は、収益性が低下しているため、収益アプローチの適用が難しい場合があります。そのため、資産アプローチや特定の条件を考慮した評価手法が必要となります。

将来の収益予測と再建計画

赤字企業でも将来の収益改善が見込まれる場合、DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)を用いて将来のキャッシュフローを評価することが可能です。再建計画やコスト削減計画など、具体的な対策を評価に含めることが重要です。

資産ベースの評価と営業権の調整

赤字企業の評価には、保有資産の市場価値を基にした資産アプローチが有効です。また、営業権(のれん)を考慮する際には、収益力の改善が見込まれるかどうかについて、慎重な評価が必要となります。一方、業績が赤字だとしても、著名なブランド資産や豊富な顧客資産がある場合、プラスに評価されることもあります。買い手の戦略によっては、価値評価が異なることもあるでしょう。

おわりに

M&Aの成功に欠かせない企業価値評価について、特に中小企業や赤字企業の場合に焦点を当てて解説してきました。企業価値評価は、単なる数値の算出にとどまらず、企業の成長や再建計画の基盤となります。適切な企業価値評価は、経営者や投資家の意思決定、成長戦略、資本政策の策定に不可欠であり、公正な取引の実現にも欠かせません。本記事で解説したように、企業の特性に応じた評価手法を選び、それぞれのアプローチを適用することが重要です。評価プロセスには専門的な知識と経験が必要となるため、実務の場面においては専門家に相談しながら進めることをお勧めします。


「のれん」と「営業権」の違いを理解する

一般的に「のれん」と聞くと、多くの人は店先に掛けられた暖簾(のれん)を思い浮かべるでしょう。これは、日本の伝統的な商習慣である「のれん分け制度」にも関連しています。この制度では、成功した店舗が新たな店舗を開くときに、暖簾を受け継ぐことで、そのブランドや信頼性をも引き継げるというものです。このように「のれん」という言葉は、広義にはブランドや評判を意味し、日本の伝統的な用語として用いられてきました。

一方で、M&A(企業の合併・買収)の文脈においても「のれん代」や「営業権」という言葉が登場します。これらは、企業経営において将来の収益力を生み出す価値を持つ無形資産を指します。具体的には、企業の純資産に上乗せされる価値の要素として「のれん」や「営業権」が挙げられます。ブランド力の大きな企業ほど「のれん代」が大きくなる傾向があり、それにより企業価値が一層高まるイメージを持つことができるでしょう。

M&Aにおける営業権・のれんの重要性

M&A(企業の合併・買収)において、買収価格を決定する上で重要な要素の一つが「営業権」や「のれん」です。これらは譲渡金額を設定する際に非常に重要な役割を果たします。多くの経営者は、営業権の売却を考え始めると、その評価がどのように高くなるのか気になることでしょう。

営業権・のれんの定義

M&Aにおける「営業権」や「のれん」は、ブランドやノウハウに限らず、情報や人材、将来の収益を生み出す元となる無形資産全体を指します。M&Aの譲渡価格の交渉においては、買収時点での資産の評価額だけでなく、その企業が持つブランド価値や独自の技術力、信用力などが総合的に評価され、将来的な収益力を元に算定されます。

目に見えない価値の評価

企業が既に保持している資産や負債の価値はある程度明確に数値化されていますが、営業権やのれんは目に見えない価値が評価の対象となります。将来得られると期待される収益に基づいて、買収価格が上乗せされるのです。

ベンチャー企業やスタートアップの買収ケース

例えば、ベンチャー企業やスタートアップが大企業に高額で買収されるケースの多くは、営業権やのれんが大きく評価された結果によるものです。独自の技術や革新的なサービス、強力なブランドを持つこれらの企業は、それらが高く評価されるのです。買収側の企業は、これらの無形資産から得られる将来の収益を見込むために高い買収価格を提示することができます。

営業権とのれんの違い

営業権と のれん は、M&Aにおける買収価格の決定において重要な概念です。ここでは、それぞれの違いを説明します。

営業権とは

営業権とは、会社が長期間にわたって収益を上げるために重要となる無形固定資産の一つです。この無形固定資産には、営業権の他に特許権や商標権などが含まれます。営業権には、企業のノウハウやブランド力、情報や人材など、将来収益を生み出す元となる無形資産が含まれています。具体的には、以下のような要素があります。

  • ブランド
  • ノウハウ
  • 技術
  • 従業員
  • 顧客リスト
  • 取引先ネットワーク

例えば、純資産が1,000万円の企業に2,000万円の営業権を加算し、合計3,000万円で買収する場合があります。このように、企業の純資産に営業権を加算して算定されるM&A価格が一般的です。収益力が高い会社ほど営業権が高く評価される傾向がありますが、業績が悪い場合には負の営業権としてマイナス評価されることもあります。

のれんとは

一方、のれんとは、会社の買収において「実際の買収額」が「買収された会社の純資産額」を上回る分の差額を指します。具体的には、買収価格から純資産を控除したものがのれんです。のれんは、最終的なM&A価格から純資産を減算することで算出されます。この差額は、2006年の会社法施行により「のれん」と定められました。

営業権とのれんの共通点と違い

営業権とのれんは、どちらも買収会社の価格と純資産の差額を表すものであり、ほぼ同義とみなして差し支えありません。しかし、それぞれの用語は歴史的背景と会計上の取り扱いに違いがあります。

共通点

営業権とのれんは、M&Aにおいて、企業の買収価格がその企業の純資産額を上回る部分を表しています。これは、買収される企業が持つブランド力、顧客基盤、従業員の能力、技術力、その他の無形資産の価値を反映しています。

違い

営業権は、会社法施行以前には会計上の勘定科目として使用されることもありました。企業のノウハウやブランド力、顧客リストなどの無形資産全体を指し、「純資産+営業権=M&A価格」という考え方が使われていました。
一方、のれんは、2006年の会社法施行以降に会計上で正式に定義されました。のれんは、買収価格から純資産額を差し引いた差額として計上されます。つまり、「M&A価格-純資産=のれん」ということです。このため、現在の会計基準では、営業権という勘定科目は使用されず、のれんとして扱われることが一般的です。営業権と同様に、無形資産の価値を表しますが、計算方法と表記が変更された点が重要です。

用語の使用

それでも、「純資産+営業権=M&A価格」というシンプルな概念がわかりやすいため、M&Aの現場では営業権の名称が使われることがあります。このように、営業権とのれんは同義でありながら、会計上の取り扱いや歴史的な背景に違いがあることには留意が必要です。


中小企業のM&Aで注意すべき簿外債務、偶発債務について解説

M&A(合併と買収)は、企業の成長戦略として重要な手段です。しかし、その過程では多くの注意点があります。中でも、簿外債務と偶発債務の理解は重要です。これらの債務は企業の財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があり、M&Aを成功させるためには正確に把握し、適切な対策を講じることが求められます。そこで本記事では、簿外債務と偶発債務について詳しく解説し、その対策方法についてもご紹介します。

簿外債務の定義

簿外債務とは、文字通り「帳簿外」に存在する負債で、財務諸表には記載されていないものの、将来的に支払い義務が生じる可能性のある負債を指します。例としては、未引当の退職金、リース契約による将来の支払い、未払い残業代などが挙げられます。これらは財務諸表には記載されないため、一見、企業の財務状態が健全に見えますが、実際には潜在的なリスクを抱えている場合があります。

簿外債務の発生理由

中小企業では、財務諸表が税務会計の基準に基づいて作成されているため、将来的な支払い義務が反映されないことがよくあります。税務会計は税金計算を目的としているため、将来の費用や損失の引当金を必ずしも計上しなくて済むのです。例えば、来期に賞与の支払いが見込まれていても、当期の貸借対照表に反映されないことがあります。上場企業ではこれらの項目が会計基準に従って適切に反映される一方で、中小企業では見落とされがちです。
さらに、訴訟リスクや保証債務など、将来特定の条件が満たされた場合に発生する可能性のある債務は、貸借対照表に計上されないため、M&Aを行う前にはこれらも簿外債務として認識しておく必要があります。これらは偶発債務と呼ばれます。

簿外債務の具体例

簿外債務にはさまざまな種類があり、以下のように分類できます。

未計上の費用

  • 退職給付引当金:従業員の退職時に支払うべき金額が引当金として計上されていない場合。
  • 賞与引当金:支払いが見込まれる賞与が引当金として計上されていない場合。
  • 計上漏れしている買掛金:取引先への未払い金が帳簿に反映されていない場合。

労務関連の費用

  • 未払い残業代:従業員への未払い残業代が帳簿に計上されていない場合。
  • 未払い社会保険料:従業員の社会保険料が未払いである場合。

リース契約による将来の支払い

  • リース債務:長期リース契約に基づく将来の支払い義務。

偶発的債務

  • 債務保証:他社の債務を保証している場合の支払い義務。
  • 訴訟リスク:進行中の訴訟により将来発生する可能性のある賠償義務。
  • 手形の裏書譲渡:手形の裏書譲渡による支払い義務。
  • デリバティブ取引:金融デリバティブ取引に伴う将来的なリスク。

簿外債務や偶発債務への対策

M&Aを成功させるためには、簿外債務や偶発債務を正確に把握し、適切な対策を講じることが重要です。以下に、具体的な対策を示します。

デューデリジェンスの強化

デューデリジェンスは、M&Aの前に対象企業の財務状況や法務リスクを詳細に調査するプロセスです。財務、法務、税務の専門家を起用し、対象企業の全ての債務を徹底的に調査し、経営陣や従業員へのインタビューを通じて、簿外債務や偶発債務の存在を確認することが必要です。

契約条項の見直し

契約に表明保証条項を追加し、売り手に対して簿外債務や偶発債務が存在しないことを保証させます。表明保証条項とは、売り手が提供する情報の正確性を保証する条項で、万が一虚偽の情報があった場合に損害賠償を請求する根拠となります。

その他リスクヘッジ手段の導入

適切な保険を契約することで、偶発債務に対するリスクを軽減します。また、企業内部でリスク管理体制を整備し、定期的な監査を実施することが重要です。

簿外債務や偶発債務が見つかったときの対処法

M&Aのプロセスにおいて、事前および事後に簿外債務や偶発債務が発見された場合、適切な対処が必要です。以下に、買い手の立場からの対処方法を事前と事後に分けて説明します。

事前の対処

M&Aの事前の対処では次の点への留意が必要です。

買収価格の再交渉

簿外債務や偶発債務が発見された場合、その金額を考慮して買収価格を再交渉します。財務、法務、税務の専門家を起用し、対象企業の全ての債務を徹底的に調査し、経営陣や従業員へのインタビューを通じて、簿外債務や偶発債務の存在を確認することが必要です。

表明保証条項を契約に追加

契約に表明保証条項を追加し、売り手に対して簿外債務や偶発債務が存在しないことを、事前に保証させます。

事後の対処

M&Aの事後の対処では次の点への留意が必要です。

問題の早期発見と対応

M&A後も継続的に財務諸表や契約をレビューし、早期に問題を発見します。簿外債務や偶発債務が発見された場合、速やかに対応し、必要な資金やリソースを確保します。

法的措置の検討

表明保証条項や補償契約に基づき、売り手に対して損害賠償を請求します。進行中の訴訟リスクについては、適切な法的措置を準備し、必要に応じて弁護士と協力して対応策を講じます。

おわりに

中小企業のM&Aには、簿外債務や偶発債務といった隠れたリスクが含まれています。これらの債務を見逃すと、取引後に多額の支払いが必要となり、買収の価値が大幅に減少することがあります。事前にはデューデリジェンスの強化や契約条項の見直しを行い、事後には問題の早期発見と迅速な対応、法的措置を講じることで、これらのリスクを最小限に抑え、M&Aを成功に導くことができるでしょう。